大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ワ)12441号 判決

原告

株式会社トラスコ

ほか一名

被告

橋本直樹

主文

一  被告は、原告兼田敏光に対し、四〇万六四一三円及びこれに対する平成七年七月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告兼田敏光のその余の請求及び原告株式会社トラスコの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一四分し、その一三を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告兼田敏光に対し、六九万四二七〇円及びこれに対する平成七年七月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告株式会社トラスコに対し、五〇一万円及びこれに対する平成七年七月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告兼田敏光(以下「原告兼田」という。)が、自動車を運転中、被告の運転する自動車に追突され傷害を負い、また、原告兼田が就労できなくなつたため、原告兼田が代表取締役の地位にある原告株式会社トラスコ(以下「原告会社」という。)が損害を受けたとして、原告らが、被告に対し、不法行為に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被告は、平成七年七月二〇日午前八時四分ころ、普通貨物自動車(和泉八八す五二三九、以下「被告車両」という。)を運転して大阪市中央区千日前一丁目先路上(府道高速大阪堺線千日〇・六キロポスト)を進行中、前方不注視の過失により、その前方を走行していた原告兼田運転の普通乗用自動車(なにわ三五ろ一四五八、以下「原告車両」という。)に被告車両を追突させた(以下「本件事故」という。)。

2  原告兼田は、本件事故により頸部捻挫等の傷害を負い、平成七年七月二〇日から同年九月二〇日までの間、医療法人歓喜会辻外科病院及び飯原病院に通院して治療を受けた。

二  争点

被告は、原告ら主張の損害額について争う。

第三争点に対する判断

一  原告兼田の損害

1  治療費 一万七四七〇円(請求どおり)

甲第九号証によれば、原告兼田は、本件事故による受傷のため辻外科病院で治療を受け、そのための費用として一万七四七〇円を負担したことが認められる。

2  通院交通費 〇円(請求一八〇〇円)

原告兼田は、飯原病院への五日間の通院に際し、バス、電車を利用し一日当たり三六〇円を支出したと主張する。しかし、原告本人兼原告代表者尋問の結果によれば、原告兼田は、通院に際し妻に自動車で送つてもらつたことが認められるうえ、右による通院に要した費用についての具体的な主張、立証はないから、通院交通費に関する原告兼田の主張は採用できない。

3  休業損害 二四万八九四三円(請求三五万円)

原告兼田は本件事故により二か月強の休業を余儀なくされ、一〇六万六八六九円の損害を受けたとして、うち三五万円を請求する。

ところで、乙第一、第二号証の各一、二、第三、第四号証及び原告本人兼原告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告兼田は、本件事故当日である平成七年七月二〇日に医療法人歓喜会辻外科病院で受診し、吐き気、指先のしびれ、頸部痛等を訴え、安静を指示されたが、レントゲン写真上明らかな骨傷はないとされ、同月二一日にも同病院で受診したが、原告兼田の希望で自宅近くの飯原病院に転院したこと、原告兼田は、同月二四日に飯原病院で受診し安静を命ぜられ、同年八月三日にも同病院で受診し投薬を受けたこと、しかし、原告兼田は、同病院で一週間に一度は通院するよう指示を受けたにもかかわらず、経過がよく楽であつたので通院せず、同年九月五日になつて右項部痛のため同病院で受診したこと、しかしその後は、同月二〇日を最後に同病院へも通院しなくなつたこと、同病院でもレントゲン写真上特記すべき異常はないとされたことが認められる。右によれば、原告兼田が本件事故によつて受けた傷害の程度はそれほど大きなものではなかつたと認められるものの、事故後二週間程度の休業はやむを得なかつたものと認められる。

そして、原告本人兼原告代表者尋問の結果によれば、原告兼田は原告会社から代表取締役として役員報酬の支給を受けていたことが認められるが、後記のとおり、従業員と同じようにコンピユーター・ソフトの設計等に従事していたことも認められるから、原告兼田は、右就労により少なくとも平成六年賃金センサス・産業計・企業規模計・学歴計・四〇ないし四四歳の男子労働者の平均年収である六四九万〇三〇〇円を下回らない収入を得ていたものと認めるのが相当である。そうすると、原告兼田の本件事故による休業損害は二四万八九四三円となる(円未満切捨て)。

計算式 6,490,300÷365×14=248,943

4  慰藉料 一〇万円(請求二六万円)

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告兼田が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するためには一〇万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

二  原告会社の損害

1  契約解除による損害 〇円(請求四二三万五〇〇〇円)

原告会社は、本件事故当時、サンノーベル工業株式会社との間でコンピユーターのプログラム設計製造請負契約(以下「本件契約」という。)を締結していたが、本件事故により原告兼田が傷害を受けたため、期日までにその履行が困難となり、同会社より本件契約を解除され、本件契約により定められていた月額七〇万円の報酬金を、平成七年七月二〇日から平成八年一月二〇日までの分に該当する合計四二三万五〇〇〇円について取得することができなかつたとして、右は本件事故による損害であると主張する。

しかし、甲第七号証の二、第八号証及び原告本人兼原告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告会社は、原告兼田が平成二年に設立したコンピユーター・システムの分析、設計及びその開発等を業とする会社で、原告兼田が代表取締役であること、原告会社には一〇名の従業員がおり、いずれもシステムエンジニアであり、原告兼田も含めて従業員がコンピユーター・ソフトの設計等に従事していること、原告会社の平成八年の売上げは八〇〇〇万ないし九〇〇〇万円程度であること、本件契約の履行が困難となつたのは、原告会社が設計するソフトは、ユーザーごとの個性に対応したものであるため、担当者がユーザーの業務内容を知らなければ対応できないものであり、本件契約では原告兼田がこれを担当していたためであることが認められる。右のような原告会社の規模及び原告兼田の業務内容に照らすと、原告会社と原告兼田との間に経済的な同一性を認めることはできず、また、本件契約の履行が困難となつたのも、原告兼田がたまたま本件契約業務を担当していたというにすぎず、原告会社の代表者としての役割が発揮できなくなつたことによるものではないから、仮に、本件契約の解除によつて原告会社が得べかりし利益を得られなくなつたとしても、これを本件事故による損害として被告に請求することはできないというべきである。

2  車両損害 〇円(請求三五万円)

原告会社は、原告車両を所有し、本件事故前に買い換えを予定しており、下取り価格について二一〇万円との査定を受けていたが、本件事故に遭つたため下取り価格が一七五万円に下がつたとして、その差額を本件事故による損害であると主張する。

しかし、乙第五号証の一、二、第六号証によれば、原告車両と同車種・同年式の車両の平成七年七月当時の下取り価格は二〇一万円であること、原告車両の修理に要した費用は五四万円五九〇〇円であることが認められるほか、原告車両に修理によつても回復できなかつた機能的な欠陥等が残つたとは認められず、これらによると、本件事故前後における原告車両の右評価の客観性には疑問があり、原告会社の主張する差額をもつて本件事故による損害であると認めることはできないというべきである。

三  結論

以上によれば、原告兼田の損害は三六万六四一三円となるところ、本件の性格及び認容額に照らすと弁護士費用は四万円とするのが相当であるから、原告兼田の請求は、被告に対し、四〇万六四一三円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成七年七月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

これに対し、原告会社には本件事故によつて損害が生じたものとは認められないから、原告会社の請求は理由がない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例